Kの謎解き
こんくらい誕生日

「あれしましょうよ、あれ」
三原楓が唐突に何かを提案するのは毎度のことであるし、それに対して片塰叶夏が溜息をつくこともまた、毎度のことであった。
「あのね、『あれ』じゃ通じないから」
「だからあれですって。誕生日を当てるやつ」
「あなた、それが『あれ』で通じると思ったの?」
「だってほら、昨日テレビでやってたじゃないですか」言ってから片塰にテレビを見る習慣がないことを思い出したようで、三原は付け足した。「叶夏ちゃんがみてないとしても、学校で話題になってましたよね」
ましたよね、と言われても片塰には覚えがない。毎日学校内で何が流行しているかなんて、いちいち気にも留めていないからだ。
「あぁ……」三原が落胆の声を上げる。「その顔。ホントに知らないんですね……」
「誕生日を超能力で当てるとか、そういうの?」
「うーん、超能力とはちょっと違う感じでしたけど。なんか、好きな数字をいくつか選ばせて、それをあれやこれやしたらその人の誕生日になる、みたいな」
「あれやこれやの部分が一番重要そうなんだけど」片塰は苦笑する。「で、今から私たちも同じことをしようって?」
「いえいえ、もっと簡単なゲームです。叶夏ちゃんがいくつか質問して、あたしの誕生日を当てるんです」
「質問って?」
「例えば、月と日を足すといくつになる? とかです。三回まで質問できるとか、そういうルールを作ってやるんですよ」
「それ、二回で十分だけど」
「え? どういうことですか?」
きょとんとする三原に、さっそく片塰は質問を繰り出した。
「月と日を足すといくつになる?」
「えっと、27です」
「じゃあ、日から月を引くと?」
「あー、17ですね」
足して2で割る。
「5月の22日ね」
「えっ……」
「中学生ならもう習ってると思うけど」目を見張る三原に、片塰は説明してやる。「未知数は月と日の二つだから、式が二つあれば十分なのよ」
「ん?」
「『ん?』じゃなくて。質問が三回なら未知数が四つ以上ないとすぐに答がわかるってこと」
「じゃあ、次はあたしが叶夏ちゃんの誕生日、当てますね」
「話聞いてた?」
「月と日を足すといくつですか?」
「月と日を足すと28。日にちは素数。この二つのヒントでわかるはずよ」
「えっと、なんて?」
「月と日の合計は28。日にちは素数」片塰はもう一度言い直した。「これで私の、片塰叶夏の誕生日がわかるわ」



数学の教科書を捲って素数について調べ終えた三原は、いらないプリントの裏面を使って考えていた。
「うーん……。5月23日、9月19日、11月17日……」
合計が28で日にちが素数といっても、15月13日などは存在しないのだから、候補はこの三つに絞られる。
三原は上唇と鼻先で鉛筆を挟みながら、プリント上の三つの日付を見下ろす。わかりきっているのに、本当に合計が28になっているかを何度も再計算してみた。
自分と一日違いだという理由だけで5月23日を推してみたくもなる。
「うぇー、わからなーい」喋った拍子に鉛筆が落ちる。
手詰まりの三原は、母親が用意してくれた夜食に手を伸ばした。普段はそんなもの作ってくれないのだが、机にむかってうんうん唸っている彼女を勉強していると勘違いした母親が気を遣ってくれたのだ。
「これで私の、片塰叶夏の誕生日がわかるわ」
という彼女の言葉は嘘だったのだろうか。
「ん?」三原は引っ掛かりを感じた。
何故あそこで彼女は「私」を「片塰叶夏」と言い直したのか。
「片塰叶夏。叶夏……。叶う、夏……。夏?」
例えば、子供が生まれたとする。夏に生まれたわけでもないのに、名前に夏という漢字を入れるだろうか。
改めて、プリントに書き込まれた候補日を見る。
5月、9月、11月。
その中で夏と言えるのは。
三原は誰よりも知っている。
彼女が解けない問題なんて出さないことを。


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