さどうぶ!
※下ネタ注意
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第5話:アダルト動画

「パンパカパーン」
そう言って机の下から出てきた部長が抱えていたのは、一台のノートパソコン。
机の下から出てきたことに対して、泉はもはや何も突っ込まなかった。
「今朝からよ」
それでも部長は泉に向かってそう言った。
「そのノートパソコンは、まさか部長、ついに完成したんですね」
「あ、メガネと同じパターンか。で、そのパソコンにはどんな力があるんですか?」
「いいえ。これは普通のノートパソコンよ」部長は言った。「凍矢君に頼まれていた、学内専用の無料アダルトサイトが完成したのよ」
「ふざくな! 学内専用って何だよ!」
「それより部長……」凍矢が真剣な顔で尋ねた。「無修正もありますか」
「……あるわ。もちろん、面倒なリンクも一切なし。サムネをクリックすればすぐにその動画が見られるわよ。タグ管理で好きなジャンルの動画もすぐに探せるし、中出しとか言っておいて浅い場所で発射みたいな詐欺動画もない」
「すごい……、完璧じゃないですか」
「でーい! アタシを下ネタに巻き込むな!」
――しかも会話がちょっとリアルなんだよ!
「まあまあ、アダルト動画でも見て落ち着けよ泉」
凍矢の言葉に頷きつつ、部長がノートパソコンの画面を泉に向けた。
「ちょ、やめろって。アタシはそんなの見ないんだ!」
「まあまあ」
「まあまあ」
「くっ、なんだ、二人ともアタシの敵か!」
泉は部室から飛び出した。
勢いのまま教室に戻ると、そこは普段と違う、どんよりとした異様な雰囲気だった。
教室内の男子生徒全員が、スマートフォンやノートパソコンの画面を食い入るように見ている。
――まさか、すでに広がっているというの……?
泉は教室も飛び出した。廊下にいる男子も皆、機器の画面を凝視している。
どこに行っても、男子はそれを見ていた。そして、泉がそういう男子の横を通ると、男子はちらりと泉を見るのだ。
その視線がどうしようもなく気持ち悪い。
――どこか安全な場所に。そうだ、あそこなら……
泉は気持ち悪い男子の視線を超えて、ようやく女子更衣室に辿り着いた。
中に入ると、他にも大勢の女子生徒がいた。
「あ、泉ちゃんも避難してきたの?」
「避難? あ、そうそう。そうなのよ」
「ホント気持ち悪いよねー。なんか男子がエッチな目でこっちをちらちら見てくるんだもん。いっつも気持ち悪いけど、今日は一段と気持ち悪いよね」
「はは、そうね……」
それが凍矢と部長の作ったサイトのせいだということは黙っておこう。泉はそう思った。

抱き付こうとしてきた男子を、部長は軽くいなした。
「ああ、私も女だからな」
いよいよ動画だけでは満足できなくなった男子生徒たちが、女子生徒に手を出し始めたのだ。
「やっぱり、普段一人で見ているアダルト動画を現実の女子がいる場で見るとこうなるんですね」
「ええ、ここまでは凍矢君の予想通りの展開ね。さすがだわ」
その後も部長にたかる男子生徒を処理しながらも、二人は放送室まで来た。
「やっぱり更衣室に逃げ込んでますね」
以前行われたスカートめくり選手権のときに部長が設けた映像設備は今も健在だ。女子更衣室内の映像まで見れることを知れば泉が黙っていないだろうが。
凍矢はマイクのスイッチを入れて、女子を探す性欲ゾンビと化した男子生徒たちに情報を与えた。
ピンポンパンポーン
「えー、女子を襲いたくて仕方ない男子の諸君。女子は更衣室に避難している模様。更衣室で行為に及べるという絶好のシチュエーションを、是非とも無駄にしないように」
ピンポンパンポーン
更衣室にはスピーカーが付いていないので、この放送は非難している女子には聞こえていない。

他の女子が避難してきても大丈夫なようにと鍵を締めていなかったのが失敗だったらしい。
突然更衣室の扉を開けて、ゾンビのように群がる男子が入ってきたのだ。
この高校の男子は度を越した変態ばかりだが、女子更衣室は彼らにとっては聖域のような場所であり、これまで男子が勝手に侵入することはなかった。だから、今回もここなら大丈夫と安心しきっていたのだ。
「えっ、そんな!」
他の女子も驚いた様子だ。誰かが「女子更衣室にだけは入ってはいけない」という男子の制限を解いたに違いない。そんなことができるのは――
「トーヤの野郎!」
叫びながらも、泉をはじめとした女子はじりじりと更衣室の隅に追いやられる。
「アタシ、トーヤのとこに行く」
「だめだよ泉ちゃん、危ないよ」
「ううん。いいの。アタシが男子どもを引きつけてここを出るから、そしたらみんなは鍵かけてここで待ってて」
「……それなら、みんなで行こう!」
女子たちが泉を見て決意を固めるように頷いた。
「ありがと。でも、トーヤを止めるのはアタシの役目だから!」
泉は迫りくる性欲ゾンビに対向する。
――男子を引き付けるには……
泉はスカートの中に手を入れて、中に履いていた体操着の半ズボンを脱いだ。
性欲ゾンビと化した男子たちが一斉にどよめく。
以前スカートめくり魔を引き付けるために凍矢が考案した方法だ。
「見たけりゃめくれえ!」
泉は脱いだばかりのズボンを目の前の男子に投げつけ、そのまま駆け出した。
こうなっては躊躇できない。泉は遠慮なく男子を蹴飛ばした。
――こいつらは男子じゃない。ゾンビだ。
心で唱えて申し訳ないと思う気持ちを封印する。
どうにかこうにか更衣室からの脱出に成功し、そのまま廊下を全力で駆け抜ける。振り返るとゾンビたちもついてきている。
「がんばれ泉!」
更衣室内からの声援を背に、泉は凍矢のもとを目指す。
――ていうか、トーヤどこにいるんだよ。
ピンポンパンポーン
「えー、泉、脱出おめでとう。聞いてのとおり、俺は放送室にいる。まあ、頑張って。そして校内を徘徊中の男子諸君。聞いてのとおり泉は更衣室を出て放送室に向かって進行中。他の女子はすっかり更衣室に閉じ籠ってしまったようなので、現在自由にできる女子は泉しかいない。是非ともこのチャンスを逃さないように。どさくさに紛れて胸を触るとか、どさくさに紛れて胸を触ろうとしてうっかり別の場所を触るとか、まあ、日頃鍛えた諸君らの変態性を存分に発揮してくれたまえ。以上」
ピンポンパンポーン
「マジでふざくなよ!」
――ホントにゾンビゲームみたいになってるし!

「うーん、何かないかなあ……」
泉は茶道部室にいた。
脱出してきた女子更衣室は北校舎の一階。放送室は南校舎の三階なので、そこを目指そうとすれば更衣室を出て階段を上らず、そのまま南校舎を目指すことになる。一方でこの茶道部室は更衣室と同じ北校舎の三階だ。放送室に向かっていると凍矢が放送で言ってくれたおかげで、茶道部室までは楽に来ることができた。
とりあえずお茶を飲み、泉は何かゾンビに対抗できそうなものがないか探していた。
戸棚の抽斗をひたすら探る。
「うわっ」
開けた瞬間、そこが凍矢専用の抽斗だと一目でわかった。
スカートをめくられて下着が丸見えの泉の写真と、一見普通のものと何ら変わらないメガネが入っていたのだ。
写真をポケットに入れる。役に立つか立たないかは別として、これを凍矢に持たせておくわけにはいかない。そして、恐る恐るメガネをかける。
普段メガネを着用しないので違和感があったが、意外と軽くて邪魔には感じなかった。
室内をぐるりと見回してみる。しかしいつもと変わらない部室。
「ホントに見えるのかなあ……?」

見えた。
群がる性欲ゾンビと化した男子たちは、泉の目には全員裸で見えた。
――そういえば、凍矢はこのメガネで男子をノックアウトしてた。でも、こんな大人数、凍矢みたいに一人ずつ相手にしてたらきりがない……。そうだ!
泉は群がるゾンビ全員に聞こえるように叫んだ。
「アタシ……、十五センチ以下はムリだから!」
一瞬空気が固まり、性欲ゾンビと化していた男子たちが一斉に崩れ落ちた。
しかし、その中にまだ立っている男子が一人。
「あれは……、黒人留学生の、たしか……、ブラウニー!」
ブラウニーの局部をメガネでよく見ると――
「そんな……、あんなに長い人がいるなんて……」
もし十五センチではなく二十センチと言っていても、彼が崩れ落ちることはなかっただろう。
ゲームでいうなら、ザコ敵に紛れているちょっと強いヤツだろうか。
「イズミチャンカワイイヨ、イズミチャンカワイイヨ」
片言のブラウニーが泉に歩み寄る。
「えっと、あの、アタシ、外国の人はちょっと……」
「ドウシテ? ニッポンジンノチンポヨリ、ボクノチンポノホウガナガクテキモチイイヨ」
「いや、えっと……」
「オクマデツケルヨ」
――男子じゃなくてゾンビ。男子じゃなくてゾンビ。ゾンビだから折れても再生するよね。
「でーい!」
泉はメガネで正確に位置を捉えて、ブラウニー自慢のそれを横蹴り。
「……ァ」
ブラウニーは目と口を大きく開き、しかし悲鳴を上げることはなく、局部を両手で押さえ、丸まるように床にうずくまった。
「ごめん!」
泉は両手を合せて頭を下げ、ブラウニーを置いて廊下を走る。
「ふおおおおおおお」
奇声を上げて泉の前に現れたのは、以前トイレを案内した、そわそわしていた彼だった。
「泉ちゃんふおおおおおお」
彼の右手はズボンの中にある。そして、泉はメガネをかけていたせいで、その右手が何を握っているのか見えたし、「ふおおおおお」と言っている時にその右手が動いているのも見えた。こんな状況でなければ、すぐにでもメガネを外して逃げているところだ。
「はあ、はあ、泉ちゃん、今スカートの下、パンツなんだよね」
右手を動かしながらそわそわしていた彼が近付いてくる。
「どうしよ……」
泉は真剣に怯えていた。メガネを通して直接見るその行為が、とんでもなく気持ち悪い。
――ええい、背に腹はかえられん!
「アタシ……、男の人がイクとこみたいなあ」
――無理矢理中で出されるくらいなら、そっちの方が何倍もましだ。
そわそわしていた彼の右手がとまり、何やら左手と合わせて動きだす。どうやらズボンおよび下着を脱いだようだ。メガネの効果で泉から見た景色は変わらないが。
そして右手が再び動き出す。
「はっはっは、うっ、出すよ、泉ちゃん、見ててね、出すよ」
泉は目を閉じた。
「はっはっは、出る出る、出る……、うっ……、はあ、はあ、はあ……。ふう」
泉は目を開けて、何も考えず、必要最低限の視覚的情報だけを取り込み、その場から離れた。
――男性は一回しかイケない
いつかの凍矢の言葉が正しければ、そわそわしていた彼はしばらく大人しくしているはずだ。
いよいよ南校舎一階の階段に到着した。ここを三階まで上れば放送室はすぐだ。
階段を上り、一階と二階の間の踊り場で折り返すと、下からゾンビと化した男子数名が覗いていた。
――見られた!
泉は咄嗟にスカートを押える。
後に気を遣いながら、泉は階段を上った。幸いなことに、下から覗いているゾンビは本当にどうにかスカートの中を覗こうとしていただけで、直接的な行為に出ることはなかった。
――ゾンビになっても消極的な人もいるんだなあ。
三階に着くと、後のゾンビたちは残念そうに階段を下りて行った。次に階段を上る女子を待つのだろうか。何だか、これまでのゾンビと比べると大人しくて可愛らしく思えてくる。
――いやいや、スカートの中覗くなんて充分変態だろ。
麻痺しかけている思考をどうにか現実に引き戻して、泉は廊下に出た。
「うきょきょきょきょー!」
そわそわしていた彼とは違った方向性の奇声を上げながら登場したのは、いつかのスカートめくり魔だった。
「うきょきょ!」
ばさっ
身構えていたにも関わらず、スカートめくり魔はいともたやすく泉のスカートをめくった。
ふわり
重力に従ってスカートが戻る。
またスカートめくり魔がめくる。
重力に従って戻る。
めくる。
戻る。
めくる。
戻る。
――あ、こいつも消極的な方なのか。ていうか、もはやスカートめくられるくらい何でもないわ。
泉とスカートめくり魔はめくる戻るを繰り返しつつ廊下を進んだ。
――結局装備が整ってない時に戦う前半のボスの方が強く感じるんだよねー。
ここでいう装備とは、変態に対する耐性だろうか。
スカートめくり魔を蹴り飛ばす。
ガラガラ
「何てことしてんのよ!」
「お、来たか泉」
放送室内の椅子に堂々と腰掛ける凍矢を見て、泉は急いでメガネを外した。
「今更恥ずかしがることないだろう。ここに来るまでに何十人も見てきただろうに」
「いや、トーヤは……、あいつらとは違うから……」
泉は目を伏せる。
「まあ、泉には感謝してるよ。おかげでいいデータが取れた」
「データって、何のデータよ」
「まあ、地球を救うためのデータだよ」
「はあ?」
「いずれわかるよ」横から部長が言った。
凍矢は立ち上って、マイクのスイッチを入れた。
ピンポンパンポーン
「男子諸君、残念ながらゲームオーバーです。泉が放送室に来てしまいました。とりあえず、一発抜いて落ち着いて下さい。なお、学内専用アダルトサイトは閉鎖するので、これからはいつも通り家で楽しんで下さい。以上」

地球を救う。
泉がその言葉の意味を理解できたのは、その数十年後。
凍矢と部長が共同で精力発電を生み出し、世界中の電力をそれで賄えるようになった時だった。

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