単発ショート
眼鏡の彼女は

高校生になった四月。初めて入った教室で、僕は一人の女子に目を奪われた。決して美人だとか、そういう外見的なことに魅かれたわけではない、と思う。工業高校なので女子生徒が少なかったというのはあるだろうが。彼女はオシャレ要素が皆無の丸眼鏡をかけていて、伸びるままに任せたような黒髪は飾り気のないゴムで束ねられていた。クラスの女子は三人。当然、その三人はすぐに仲良くなったようだった。ところで、ほぼ男子校といっても差支えない工業高校である。数少ない女子に男子が取り入ろうとするのは必然といっても過言ではない。そして、女子たちも群がってくる男子に満更でもない様子だった。一人を除いては。そう、初めて見たときから何故か気になっていた彼女である。彼女だけは、男子から話しかけられてもほとんど口を開かず、他の女子としかお喋りを楽しむ気がないようだった。そして、彼女のそういう態度を見れば見るほど、僕は彼女を魅力的に感じるようになっていった。しかし、話しかけたところで他の男子同様素っ気なくあしらわれるだけだろうことが容易に想像できたので、結局何もアプローチをかけないままに一年が過ぎ、二年生となった。
新しい僕の教室に彼女はいなかった。一学年につき四クラスあるので、僕が彼女とまた一年間同じ教室で過ごせる確率は二十五パーセントだったわけで、八十パーセントを超えないと信用できない性格の僕からすれば、別にショックでも何でもなかった。もし同じクラスになっていたとしても、一年生の頃と同じもどかしさを繰り返すだけだというのは想像に難くないし、いっそのこと彼女のことなんて忘れてしまおうとさえ考えた。本当に忘れてしまったのか、それとも単に高校という環境に慣れてしまっただけか、二年生の僕は可もなく不可もなく安易な時間の中を流れ、順当に進級した。
入学からもう二年という月日が流れたわけだ。三年生の教室に入ると、美人がいた。顔は小さくてすっきりしている。目の輪郭はくっきりしていて大きい。髪は僅かにウェーブがかかっていて、蛍光灯の光を反射して艶の黒が輝く。全てが男子とは違う、圧倒的な女子だった。すでに数人の男子に取り囲まれて、話の中心を陣取っていた。チャイムが鳴り、三年生になってから初めてのホームルームで自己紹介をした。その時ようやく、あの美人が彼女であることに気づけた。変わるものだ。よくもまあ、一年であれほど。その後の休憩時間で僕は幻滅した。いや、本当は彼女だと気づいた時点で幻滅していたはずだ。僕は期待していたのだ。たとえ髪がウェーブしていようと、コンタクトデビューしていようと、彼女は彼女のままだと。そう、一年生の時、男子からちやほやされて満更でもなさそうにしていた四人の女子と同じになっている。なり下がっている。味を占めた、という言葉がぴったりだろう。彼女は二年生の時に気づいたのに違いない。ああして外見を整えて、近寄ってくる男子たちに優しくしておけばさまざまな場面で楽ができるということに。そして僕は後悔した。一年のとき、話しかけていれば。二年生で同じクラスになれていれば。そうでなくても彼女を忘れようなんて思わずに休憩時間などにこっそり様子を見に行っていれば。僕なら彼女をあの時のままにしてあげることができたのに。
僕が彼女に抱いていた感情は、全て反転した。


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