単発ショート
卓球

体育の授業は卓球だった。俺はシングルスの方が余計な気を使うことなく自由気ままにプレイできて好きなのだが、残念ながら試合はダブルスで行われた。パートナーが見つからなくておろおろしていた、顔を知っているというだけの男子と組んで、だらだらと試合を消化していた。
それは何試合目のことだっただろう。初めて女子のペアとぶつかった。正直言って、それまでの試合とは比べ物にならない緊張感である。手汗でラケットを落としてしまわないだろうか、と心配になるほどだった。試合開始を告げる笛の音を待っていると、対面の女子ペアがこそこそと話す声がきこえた。
「緊張してない?」女子Aが女子Bの耳元で囁いた。
「してないよぉ」女子Bの頬が僅かに紅潮しているのを、俺は見逃さなかった。「もう、変なこと言わないで」
「ゴメンゴメン」
そんな会話だった。そして俺は確信した。女子Bは俺に好意を持っていると。しかし、それには気づかない振りをして、どうにか平静さを保って、何食わぬ顔で、試合を終えた。粗相はなかったはずだ。運動量をはるかに超える疲れがのしかかる。それからまた対戦相手が変わり、俺はそれまでの試合に倣って適度なメリハリで終業時刻まで卓球少年を演じた。
それからというもの、俺は女子Bのことを執拗に気にするようになった。しかし、彼女は俺への好意を気づかれているとは思っていないだろうから、こちらから何かを仕掛けるようなことはせず、相手が勇気を出して想いを伝えに来るのを待っていた。できれば夏休みまでに関係を進めて、夏祭りを一緒に楽しみたいな、と俺は彼女との甘い青春を妄想していた。
それから三ヶ月以上が経過する。
夏休み明けの初日。朝の教室内は女子Bがある男子と付き合っているという噂で持ち切りだった。果たしてその男子とは、あの卓球の授業のとき、俺がペアを組んでいた男子だった。


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