単発ショート
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登場人物

容疑者 ……不良の女の子
目撃者 ……いろいろ見てる
守衛  ……小屋にいる
警部  ……とにかく逮捕
犯人  ……往生際が悪い
探偵  ……すべてお見通し


第1話

「違う。ウチは犯人じゃねえ。おいコラ離せ」容疑者は警部に連行されようとしていた。
「警部」若い声が室内に乱入する。「彼女は犯人ではありません」
「探偵か。何の用だ」警部はまだ容疑者の手を離さない。「もう事件は解決したぞ」
「いいえ。解決なんてしていません。彼女は犯人ではない。ただの容疑者です」
「なんだと。私の推理が間違っているというのか」
「いえ、僕の推理と警部の推理が異なっているというだけですよ。とりあえず、僕の推理を聞いてください。そのあとでどちらが正しいか、警部が判断すればよいでしょう」
警部は腕時計を確認してから言った。「いいだろう。話してみろ」
「では遠慮なく」探偵は部屋の中心に移動して全体を見回した。「たしかに、状況を見れば容疑者ちゃんが犯人だと考えてしまいます」
「容疑者ちゃんって……」そう呟いて容疑者は探偵から目を逸らした。
「だからこそ、これは容疑者ちゃんを犯人に仕立て上げるための罠であると僕は考えます」
「罠だと」警部の低い声が探偵に詰め寄る。「じゃあ、探偵は誰がそれを仕掛けたというんだ」
「もちろん、犯人ですよ。そう――」探偵は再部屋にいる人を見回して、その中の一人に人差し指を突き出した。「あなたです」
「な……、俺が、犯人だと」突然の指名に動揺を隠せていない犯人。「証拠、何か証拠があるのか!」
「容疑者ちゃんが警部に連れていかれようとしているとき、あなたは笑っていましたね。被害者ならまだしも、この事件に特に関係がないはずのあなたがあの状況で笑うなんておかしい」
「違う。俺は犯人が捕まったことに安心して笑っただけだ。おかしくなんてない」
「では言葉を変えましょう」探偵は犯人に接近する。「愚かしいですよ」
「愚かしい……」
「そうです。もう、認めてください」
犯人は床に膝をつき、続けて手もついた。無言の降参だった。
「では警部、あとはお願いします」
警部は容疑者から離れると、犯人を無理矢理立ち上がらせた。
「大丈夫ですか?」解放された容疑者に駆け寄る探偵。
「別に、大丈夫だ」容疑者は探偵の目を見ない。「その……、ありがとな」


第2話

「つまり、犯人はその漬物石を使うことでアリバイを作ったということです。ですよね、犯人さん?」いつものように探偵は人差し指を突き出した。
「いや、俺じゃない。漬物石なんて誰でも持ってるはずだ」
「それはあなたの思い込みです。容疑者ちゃんのような若い子は、漬物石なんて持っていませんよ。そしてその思い込みこそ、あなたが犯人であることの揺るぎない証拠です」
「そんな……、まさか最近の子が漬物石をもっていないなんて……」しかし俯いていた犯人は顔を上げた。「いや、そこにいる目撃者だって俺と同い年くらいだろ! あいつが犯人じゃないのか!」
「おやおや、何を言っているんですか。彼は目撃者ですよ。相変わらず往生際が悪いですね。では、彼に直接説明してもらいましょうか」そう言って探偵は片手で目撃者に合図を送った。
「今朝、そいつがでっけえ荷物持って学校に入るの見たんだよ」身振り手振りも交えつつ目撃者は語った。「それで不思議に思ってよお、しばらく待ってたら、そいつが出てきて、そのときは荷物を持ってなかったんだよ」
「そういうわけですよ」
「くっ」犯人が崩れ落ちた。
「あー、羨ましい。ウチも探偵に捕まえられてえなあ」見ていた容疑者が小さく呟いた。
「僕が捕まえるのは犯人だけですよ」
「なっ、聞こえてたのかよ」容疑者は顔を赤くして慌てる。「じょ、冗談だよ」
「いやあ、探偵ってすげえな!」容疑者の声をかき消すように目撃者が会話に加わった。「俺びっくりしたぜ」
「いえ、今回はあなたのおかげですよ」
「いやいや、そんな謙遜しなさんなって。目撃者である俺を見つけ出した時点ですげえよ」
「ふふん、そうだろ」容疑者は自慢げに鼻を鳴らした。「探偵はすごいんだ。ウチも助けてもらったからな」
「ああ、ガチですげえよ。なあ、これからお前が推理を披露するとき、俺も見てていいか?」
「僕の推理でよければいくらでも」
「よっしゃあ! 俺が探偵の伝説を目撃する者になってやるぜ!」


第3話

「あなたが犯人ですね」
そう言って犯人を指すと、彼は一歩後ろに下がった。
「ち、違う。俺は犯人じゃない!」
「しらばっくれんなよ」どすの利いた声で容疑者が犯人につかみかかる。「探偵がお前を犯人だって言ってんだ。お前が犯人に決まってんだろうが」
「おいおい容疑者ちゃん。暴力はやめてくれ。そんなことしなくても、僕が今から推理で彼を追い詰めるから大丈夫だ」
「あ、やだ、ウチったら」容疑者の声が突然女の子らしいものに変わった。そして犯人から手を離す。「ごめんな、探偵」
上目づかいで見つめてくる容疑者を片手で制してから、探偵は犯人に向き直る。
「ふん、俺は犯人じゃないぞ。だいたい、犯行時刻に学校に入ったのはその容疑者だけだって守衛さんが言ってるじゃないか」
「その件に関してはもう解けています」
「うお、マジかよ。さすが探偵!」またもや上目づかいを駆使する容疑者。
探偵は気にせず推理を続ける。
「あなたは、守衛さんに気付かれないように学校に侵入したのですよ」
「そ、そんなことできるわけない」食い下がる犯人。
「いいえ、できるのです。昨夜試してみました。守衛さんは、僕に気付きませんでした」
「くっ……」犯人は膝から崩れ落ちた。「そこまで気付かれているなんて」
「改めて問います。あなたが、犯人ですね」
「……はい」
「おっしゃあ! 解決だぜえ!」今まで静かに見ていただけだった目撃者が立ち上がり叫んだ。「さっすが探偵だ! その推理、俺が確かに目撃したぜ」
「だよなだよな」容疑者も彼に同調して盛り上がり始めた。「今回も超絶かっこよかった」
「ところで容疑者ちゃん」盛り上がる容疑者に探偵は聞いた。「どうしてあんな時間に学校に来たんだい?」
「えっと……、それは、その……」さっきまで騒いでいた容疑者が急に大人しくなった。声の大きさも犯人に掴みかかっていた時の半分くらいしか出ていない。「教室に課題を忘れちゃって……」
「真面目」探偵と目撃者の声が重なった。


第4話

「今度こそ、君が犯人だな」警部は容疑者を引っ張っていた。
「違う。ウチじゃねえよ。おいコラ離せ」容疑者は暴れる。彼女なりの抵抗だった。「証拠を見せろよ、証拠を。どうせ探偵の足元にも及ばないような推理でウチが犯人だって決めつけてんだろ!」
「関係者でアリバイが無いのは君だけだ。他の生徒は皆授業に出ていたからな。そして守衛さんが誰も出入りしていないと証言している。つまり内部の犯行だ。そうなると、必然的に君しかいない」
「はあ? あんなザル守衛を信じるのか。ふざけんな。前も犯人見逃してたじゃねえかよ!」
「怪しい人物を目撃した人もいない」
警部は同意を求めるように目撃者を見た。
「くそっ!」目撃者は壁に拳を打ち付けた。「どうして、どうして俺はこんな時に限って目撃できてないんだ!」
「気にするな目撃者。何も見ていないからこそ証明できることだってある」
「目撃者が見逃してる可能性だってあるだろ」容疑者が反論する。
「彼女はこう言っているが、どうかね目撃者。君が見逃すとは私には思えないがね」
「くっ」再び拳を打ち付けた。「確かに、俺が目撃に失敗するはずがねえ。目撃者である俺が目撃できないわけはないんだ」
警部は容疑者を掴んでいる手に力を込める。
「もう、諦めなさい。君には動機もあるんだ」
「はあ、ウチに動機があるって? そんなわけねえだろ!」
「以前、君は探偵に捕まえられたいと言っていたそうじゃないか」
「なっ……、どうしてそれを」
「この前の犯人に聞いたんだよ。あの漬物石のやつだ。しかし、探偵じゃなくて悪かったな」
「そうだよ、どうせ捕まるなら探偵に捕まえてほしかったのに!」
「それは君が犯人だと認めているのかね」
「せめて、せめて探偵が来るまで待っててくれよ」容疑者が必至に懇願する。
「そうだ、俺からも頼むぜ。俺はあの探偵を目撃したいんだ」
「駄目だ。観念しろ、容疑者」
いよいよ容疑者は犯人にされようとしていた。


第5話

「警部、待ってください。彼女は犯人ではありません」
「探偵!」容疑者と目撃者は待っていたかのように声を上げた。
「探偵、悪いが今回は間違いない。こいつが犯人だ」警部は掴んでいた腕を引いて容疑者を探偵に見せつけた。
「いいえ、違います」探偵はゆっくりと首を横に振った。
「根拠は」
「警部、まずは容疑者ちゃんから手を離してください。話はそれからです」
少し迷った様子だったが、警部は言われた通りに手を離した。
その瞬間、探偵は容疑者に駆け寄り、彼女の手を掴んで引き寄せた。
「探偵、どういうつもりだ」
「容疑者ちゃんは犯人ではありません」容疑者の手を握ったまま、探偵は彼女を抱き寄せる。「なぜなら、容疑者ちゃんは容疑者だからです」
そう言うと、探偵は容疑者の手を引いて部屋を飛び出した。
「待て」
追いかけようとする警部の体を、目撃者が押さえた。
「何をする目撃者!」警部は必死にそれを振りほどこうとする。
「行け、探偵! お前の勇姿、俺が目撃してやるぜ!」
目撃者の声に背中を押され、二人は門に向かって一直線に走る。玄関を出て、駐車場を横切り、守衛小屋の前を通る。
何とか目撃者を振り払って、警部も二人を追って部屋を出た。彼も門に向かう。すると、守衛小屋から一人の老人が出てきた。
「守衛さん、探偵を見ませんでしたか?」警部は尋ねる。
「さあ、見とらんね。探偵が入っていくのはさっき見たが、まだ出てきとらんよ」
「まだ校内か」警部は来た道を引き返していった。
「ザル警備じゃからの」一人呟くと、老人は守衛小屋に戻った。
二人は走り続けていた。探偵の手はまだ容疑者の手を握ったまま離さない。
「いいのか探偵、こんなことして」息が上がっているのを悟られないようにしつつ、容疑者は口を開いた。
「やっぱり、真面目だね」
探偵は笑った。容疑者に見せる、初めての笑顔だった。


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